医療アクセスの良さは「病院の数」だけでは測れない
「医療施設が多い街は安心」——この判断がどれだけ危ういかを、実際のデータで確かめました。 診療所数を絶対数で並べたランキングと、人口10万人あたりで並べ直したランキングを比べると、 順位はまったく別物になります。
絶対数で並べると、大都市が並ぶだけになる
まず、診療所の数をそのまま多い順に並べます。
| 順位 | 市区町村 | 人口 | 診療所数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 大阪市 大阪府 | 2,778,917人 | 3,605 施設 |
| 2 | 横浜市 神奈川県 | 3,753,398人 | 3,100 施設 |
| 3 | 名古屋市 愛知県 | 2,303,004人 | 2,192 施設 |
| 4 | 福岡市 福岡県 | 1,608,140人 | 1,640 施設 |
| 5 | 神戸市 兵庫県 | 1,493,543人 | 1,624 施設 |
| 6 | 京都市 京都府 | 1,373,887人 | 1,621 施設 |
| 7 | 札幌市 北海道 | 1,955,678人 | 1,413 施設 |
| 8 | 広島市 広島県 | 1,173,543人 | 1,206 施設 |
| 9 | 川崎市 神奈川県 | 1,535,141人 | 1,057 施設 |
| 10 | さいたま市 埼玉県 | 1,350,500人 | 1,007 施設 |
予想どおり、人口の多い大都市が並びました。 しかしこれは「その街に住む一人あたりの医療アクセス」を示す数字ではありません。 人口が10倍なら施設が10倍あっても、住民から見た手厚さは同じです。
人口10万人あたりに直すと、順位はこう変わる
同じデータを人口で割り、10万人あたりの診療所数に直しました。 人口の少ない自治体は施設1件で数字が跳ね上がるため、人口10万人以上に絞っています。
| 順位 | 市区町村 | 診療所数 / 人口 | 10万人あたり |
|---|---|---|---|
| 1 | 中央区 東京都 | 690 / 187,404人 | 368.2 施設 |
| 2 | 港区 東京都 | 866 / 267,780人 | 323.4 施設 |
| 3 | 渋谷区 東京都 | 673 / 231,402人 | 290.8 施設 |
| 4 | 新宿区 東京都 | 707 / 352,717人 | 200.4 施設 |
| 5 | 豊島区 東京都 | 491 / 294,644人 | 166.6 施設 |
| 6 | 武蔵野市 東京都 | 217 / 148,034人 | 146.6 施設 |
| 7 | 長崎市 長崎県 | 513 / 390,551人 | 131.4 施設 |
| 8 | 大阪市 大阪府 | 3,605 / 2,778,917人 | 129.7 施設 |
| 9 | 文京区 東京都 | 296 / 235,345人 | 125.8 施設 |
| 10 | 台東区 東京都 | 264 / 216,084人 | 122.2 施設 |
| 11 | 甲府市 山梨県 | 224 / 183,850人 | 121.8 施設 |
| 12 | 目黒区 東京都 | 335 / 281,400人 | 119.0 施設 |
| 13 | 和歌山市 和歌山県 | 419 / 352,941人 | 118.7 施設 |
| 14 | 品川区 東京都 | 489 / 412,786人 | 118.5 施設 |
| 15 | 京都市 京都府 | 1,621 / 1,373,887人 | 118.0 施設 |
人口10万人以上の277市区町村における中央値は 10万人あたり79.0施設です。 1位の中央区(東京都)は368.2施設で、 中央値の4.7倍。 同じ「人口10万人以上の街」の中に、これだけの密度差があります。
絶対数の上位は、人口あたりでは何位なのか
ここが一番はっきり出た部分です。絶対数のトップ5が、人口あたりのランキング(277市区町村中)で何位に位置するかを並べました。
たとえば横浜市は診療所の絶対数では全国2位ですが、 人口10万人あたりで見ると277市区町村中115位です。 施設の数そのものは全国有数でも、それを分け合う住民の数も全国有数だからです。
ランキングの「上位」が意味を持つのは、指標の定義を確認してからです。 医療施設数に限らず、保育所数でも学校数でも同じことが起きます。 絶対数のランキングは、実質的には人口ランキングの言い換えになりがちだということです。
そもそも「病院」と「診療所」は別のものを測っている
統計上、医療機関は主に「病院」(20床以上の入院設備を持つ施設)と 「診療所」(入院設備を持たない、または19床以下の小規模施設)に分類されます。 この2つは似て非なる役割を持っています。
日常的な体調不良や慢性疾患のフォローアップで頼るのは、多くの場合、 近所の診療所——いわゆるかかりつけ医です。 一方、入院や手術が必要な急性期の医療は病院が担います。 つまり「日常の医療アクセス」と「いざという時の医療アクセス」では見るべき指標が違うということです。
2つの指標が食い違う実例
中央区(東京都)は、 人口あたりの診療所数では1位と上位ですが、 人口あたりの病院数では268位です。 かかりつけ医は探しやすい一方、入院や手術が必要になったときは 近隣自治体の医療機関に頼ることになる可能性がある、という読み方になります。
街くらべの各市区町村ページでは診療所数と病院数を分けて掲載しています。 日々の通院のしやすさを重視するなら診療所数、 万が一の入院・手術への備えを重視するなら病院数を、それぞれ見てください。
この数字で分からないこと
人口あたりに直しても、まだ埋まらない情報がいくつもあります。
- ● 診療科目の内訳。内科・小児科・産婦人科・整形外科といった科目別の数は、このデータには含まれていません。子育て世帯にとっての小児科・産婦人科の充実度は、施設総数からは判断できません。候補地が絞れたら自治体や医師会のサイトで科目別のリストを確認してください。
- ● 市区町村内での偏り。施設が駅前に集中していれば、同じ市内でも住む場所によってアクセスは大きく変わります。集計値は街の平均でしかありません。
- ● 隣接自治体の医療機関。市区町村単位で医療施設が少なく見える街でも、隣の市に大きな総合病院があれば実質的なアクセスは統計以上に良くなります。特に人口の少ない自治体では、行政区分をまたいで近隣中核都市に通うのが一般的なケースも珍しくありません。生活圏全体で考える視点が必要です。
- ● 施設の規模と質。病床数・医師数・診療時間・救急対応の可否は含まれていません。「1施設」の中身は大きく異なります。
まとめ
- ● 施設数の絶対数ランキングは、実質的に人口ランキングに近い。人口あたりに直して初めて比較になる。
- ● 日常の通院なら診療所数、緊急時への備えなら病院数。2つは別の指標として見る。
- ● 科目の内訳・市内の偏り・隣接自治体までは統計に出ない。候補が絞れたら一次情報で確認する。
医療データは安心材料にはなりますが、保証ではありません。 必要な医療の内容は個人の健康状態やライフステージで変わります。 統計で候補を絞り、最後は自分の必要に照らして確認するのが現実的な使い方です。
この記事の数字について(使用データ・算出方法)
- 出典
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- 厚生労働省「医療施設調査」に基づく病院数・診療所数
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(人口)
- 算出方法
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- 人口10万人あたり診療所数 = 診療所数 ÷ 人口 × 100,000
- 人口10万人あたり病院数 = 病院数 ÷ 人口 × 100,000
- 「人口あたり順位」は人口10万人以上の市区町村内での順位(絶対数順位は全国の全市区町村が対象)
- 中央値は対象市区町村の値を昇順に並べた中央の値
- 集計対象
- 絶対数ランキングは全国の全市区町村。人口あたりランキングは人口10万人以上かつ診療所データがある277市区町村。人口規模の小さい自治体は施設1件の増減で人口あたりの値が大きく振れるため除外しています。
本文中の順位・平均値・相関係数は、街くらべが保有する全国1,917市区町村のデータベースから ページ表示時に算出しています。 東京都特別区部(23区の合計値を持つ集計行)は二重計上を避けるため全ての集計から除外しています。 元データに欠損がある市区町村は、その指標の集計から除外されます。