一人暮らし vs 同棲・夫婦、街選びの基準はどう変わるか
同じ「街選び」でも、一人で住むか二人で住むかで最適解は変わる——とよく言われます。 本当に変わるのかを、街くらべが持つ全国人口10万人以上の416市区町村のデータで確かめました。 一人暮らし向きの上位と、子育て世帯向きの上位がどれだけ重なるかを実際に数えています。
「向いている街」は本当に入れ替わるのか——確かめ方
一人暮らしの街選びと、同棲・夫婦の街選びでは見るべきものが違う、という話は感覚的には誰もが頷きます。 ただ、それが「街のレベルで」本当に起きているのか——つまり一人暮らしに向いた街の上位と、 二人以上の世帯に向いた街の上位が実際に別の顔ぶれになるのか——は、数えてみないと分かりません。
そこでこの記事では、世帯構成ごとに「向いている街」を測る物差しをまず決め、 同じ母集団に当てて上位の顔ぶれを比べます。物差しは次の2組です。
- ● 一人暮らし向きの物差し:1R(ワンルーム)の平均家賃と、それをその街の平均所得で割った家賃負担率。一人暮らしの住居費はほぼ1R・1Kの家賃で決まるので、この2つで見ます。
- ● 二人以上世帯向きの物差し:15歳未満人口比率(その街に子育て世帯がどれだけ集まっているか)と、人口1万人あたりの保育所数(子育ての受け皿がどれだけ手厚いか)。同棲・夫婦のすべてが子育てを見据えるわけではありませんが、二人暮らしの街選びで一人暮らしと最も違いが出るのがこの軸です。
母集団は、引っ越し先として現実的な規模である人口10万人以上の416市区町村です。 人口数千人の町村を含めると、施設1件の増減で人口あたり指標が跳ね、順位の意味が薄れるためです。
先に断っておくこと
街くらべが持っている家賃は1Rの平均だけで、二人暮らしが実際に借りる1LDK・2LDKの家賃はありません。 所得も世帯年収ではなく、市区町村ごとの平均課税対象所得(納税者1人あたり)です。 この記事の「一人向き」「二人向き」は、手元にある指標で街の水準を代理的に測ったものだと理解して読み進めてください。 持っていないデータについては、記事の後半でまとめて書きます。
一人暮らし向きの見方:「1Rが安い街」と「所得に対して軽い街」は別物
一人暮らしの街選びで最初に見るのは家賃です。ただし、額面の安さだけで選ぶと落とし穴があります。 家賃が安い街は所得水準も低いことが多く、その街で働いて暮らすなら「安い」の中身が変わってしまうからです。 そこで、1Rの年間家賃をその街の平均所得で割った家賃負担率で、所得に対して家賃が軽い街を並べました。
| 順位 | 市区町村 | 1R家賃 / 平均所得 | 家賃負担率 |
|---|---|---|---|
| 1 | 霧島市 鹿児島県 | 32,907円 / 297.9万円 | 13.3% |
| 2 | 桐生市 群馬県 | 36,704円 / 305.7万円 | 14.4% |
| 3 | 渋谷区 東京都 | 130,949円 / 1073.7万円 | 14.6% |
| 4 | 周南市 山口県 | 42,003円 / 342.9万円 | 14.7% |
| 5 | 北見市 北海道 | 39,357円 / 320.3万円 | 14.7% |
| 6 | 日立市 茨城県 | 42,570円 / 341万円 | 15.0% |
| 7 | 宇部市 山口県 | 42,442円 / 333万円 | 15.3% |
| 8 | 太田市 群馬県 | 42,560円 / 333.8万円 | 15.3% |
| 9 | 瀬戸市 愛知県 | 44,070円 / 343.6万円 | 15.4% |
| 10 | 津市 三重県 | 44,342円 / 344.6万円 | 15.4% |
1位の霧島市(鹿児島県)は 家賃負担率13.3%。母集団275市区町村の中央値は18.1%なので、 その差は4.9ポイントです。 1Rの年間家賃が、その街の平均所得の13%前後で収まる街が上位に並んでいることになります。
では、この「所得に対して軽い街」の顔ぶれは、単純に「1Rが安い街」と同じなのでしょうか。 1R家賃が安い順のTOP10について、家賃負担率では何位になるかを並べてみます。
1R家賃が安い順TOP10のうち、家賃負担率でもTOP10に入ったのは3件でした。 残りの7件(大牟田市・別府市・石巻市・延岡市・江別市・都城市・八代市)は、家賃の額面では全国トップ10に入りながら、所得に対する軽さでは11位・17位・13位・62位・31位・81位・76位まで下がります。
「1Rが安い街」の所得はどれくらいか
1R家賃が安い順TOP10の平均所得の中央値は295.8万円。 母集団275市区町村の所得中央値は346.2万円なので、 家賃が安い街は所得も50.4万円ほど低い、という関係がはっきり出ています。 なお1R家賃そのものの中央値は月54,050円です。
一人暮らしの人にとって重要なのは、この「額面と実質のズレ」を知ったうえで自分に当てはめることです。 その街で働くなら負担率の軽さが効いてきますし、勤め先が別の街にあって収入が変わらないなら、額面の安さがそのまま家計の余裕になります。 どちらの立場かで、見るべき表が変わります。
二人以上世帯向きの見方:子どもの割合と、保育所の手厚さ
同棲や夫婦での街選びになると、家賃以外の軸が急に重みを持ちます。将来子どもを持つ可能性があるなら、 「子育て世帯がすでに集まっている街か」「保育の受け皿が人口に対して足りているか」は、一人暮らしのときには見なかった数字です。 まず前者を、15歳未満人口比率で並べました。
1位の浦添市(沖縄県)は 15歳未満が人口の17.0%。母集団416市区町村の中央値11.9%より 5.1ポイント高く、 住民のおよそ6人に1人が子どもという構成です。
次に、保育の受け皿です。保育所の数そのものは人口の多い街ほど多くなるので、人口1万人あたりに直して比べます。
1位の八代市(熊本県)は 人口1万人あたり4.67件で、母集団277市区町村の中央値2.15件の およそ2.2倍です。
「子どもが多い街」と「保育所が手厚い街」は一致するか
2つのTOP10に両方入った街は1件 (沖縄市)でした。 母集団277市区町村で15歳未満比率と人口1万人あたり保育所数の順位相関を取ると ρ = 0.05、「ほとんど相関がない」水準です。 両者はほとんど連動していません。「子育て世帯が多い街なら保育所も手厚いだろう」という推測は、少なくとも人口10万人以上の街では成り立ちません。
二人以上の世帯にとって大事なのは、この2つが別の指標だという点です。 「子育て世帯が多い街」は同じ立場の家庭が多く暮らしやすい反面、保育の競争が厳しいこともある。 「保育所が人口比で多い街」は受け皿は厚くても、子どもの数が減っているから比率が高く見えているだけ、ということもあります。 どちらか一方だけで決めず、両方の順位を見比べてください。
入れ替わりの実証:一人向きTOP20と二人向きTOP20はどれだけ重なるか
ここからが本題です。一人暮らし向きの物差し(家賃負担率が軽い順)で上位20位に入る街と、 二人以上世帯向きの物差し(15歳未満比率が高い順)で上位20位に入る街を、同じ母集団で突き合わせました。 まず、それぞれのTOP5がもう一方の物差しでは何位になるかを見ます。
一人暮らし向きTOP5のうち、二人向きのTOP20から外れる街は5件。 逆に二人以上世帯向きTOP5のうち、一人向きのTOP20から外れる街は5件でした。 上位の顔ぶれは、物差しを替えるとほぼ総入れ替えになります。
TOP20同士の重なり
一人暮らし向きTOP20と二人以上世帯向きTOP20の両方に入った街は 0件でした。 家賃負担率で上位20位に入る街と、15歳未満比率で上位20位に入る街は、1つも重なりません。世帯構成によって「向いている街」が入れ替わることが、この母集団では文字どおりの意味で確認できました。
上位だけでなく母集団全体で見ても、傾向は同じでしょうか。275市区町村で家賃負担率と15歳未満比率の順位相関を取ると ρ = -0.05(ほとんど相関がない)でした。 全体では両者はほとんど連動していません。一人暮らしに向く街と子育て世帯に向く街は、対立するわけでも重なるわけでもなく、別々の要因で決まっていると考えるのが自然です。
つまり、一人暮らしのときに「良い街」だと感じた場所が、二人暮らし・子育ての物差しでも上位に来る保証はありません。 同棲や結婚を機に住み替えるなら、前の街の評価を引き継がず、物差しごと替えて候補を作り直す方が確実です。
所得の読み方:「二人だから2倍」にはしない
二人暮らしの住居費は世帯収入で考えるのが普通です。しかし街くらべの所得データは、 その市区町村に住民票がある納税者1人あたりの平均課税対象所得であって、世帯の年収ではありません。 「二人なら2倍」と機械的に掛けると、共働きでない世帯、年収の差が大きいカップル、 高所得層のベッドタウンで平均が押し上げられている街などで、実態から大きく離れてしまいます。
参考までに、母集団275市区町村の平均所得は中央値で346.2万円、 最も低い街で270.4万円、最も高い街で1396.8万円です。 最高と最低の差は5.2倍にもなります。 この幅の中で自分たちがどこにいるかは、街の平均からは分かりません。
二人暮らしで所得データを使うなら、次の使い方をおすすめします。 街の平均所得は「その街の家賃水準が、そこに住む人の稼ぎに対して重いか軽いか」を知るための背景情報として読む。 そのうえで、家賃負担率は自分たち二人の手取りの合計と、実際に借りる間取りの家賃で計算し直す。 街の数字で候補を絞り、最後は自分たちの数字で決める、という二段構えです。
手取りに対する家賃の考え方は 「家賃は手取りの3割」は本当に正しいのかで、 家賃負担率という指標そのものは 家賃と所得の相関から見える「コスパの良い街」ランキングの裏側で詳しく扱っています。
この記事のデータに無いもの
ここまでの分析は、街くらべが持っている指標だけで組み立てています。二人暮らしの街選びで本来見たいのに、 この記事では扱えなかったものを正直に挙げておきます。
- ● 1LDK・2LDKなどファミリー向けの家賃。持っているのは1Rの平均家賃だけです。二人暮らしが実際に払う家賃ではなく、「その街の家賃水準の高低」を示す代理指標として使っています。1Rが安い街は概ね広い間取りも安い傾向にありますが、都心では1Rと2LDKの開き方が郊外より大きく、順位が入れ替わることがあります。
- ● 世帯年収。前のセクションのとおり、所得は納税者1人あたりの平均です。共働き率や世帯の構成は分かりません。
- ● 待機児童数・保育所の定員。保育所の「数」は分かりますが、定員や空き、待機児童の実数は持っていません。人口1万人あたりの保育所数が多くても、需要がそれ以上に多ければ入りにくい街です。
- ● 学区・学校の数・教育環境。子どもが小学生以上になったときの判断材料は、この記事にはありません。
- ● 市区町村単位の治安。街くらべの犯罪率は都道府県単位の値なので、同じ県内の街同士を比べることはできません。一人暮らし、特に女性の一人暮らしで優先度が高い項目ですが、この記事の分析軸から外しています。
- ● 通勤時間。二人暮らしで最も検討要素を増やす「通勤先が2つある」問題は、住む街ではなく職場の場所で決まるため、統計データにはなりません。
これらは各市区町村ページの数字を見た後に、自分たちで補うべき情報です。 この記事の順位は候補を絞る一次フィルターとして使い、最終判断の材料にはしないでください。
データの外側にある考え方:予算・間取り・通勤・契約
最後に、数字にはならないものの世帯構成で確実に変わる考え方を、短くまとめます。
- ● 一人暮らしは利便性に振り切れる。生活の全てが自分一人の都合で決まるので、広さより駅近・職住近接に予算を寄せる選択が成立します。ただし在宅勤務が多いなら、部屋の快適さを軽視した分はそのまま生活の質に返ってきます。
- ● 二人暮らしは通勤先が2つになる。一方を最適化するともう一方が犠牲になるので、双方の職場の中間か、乗換なしで両方に行けるターミナル駅の沿線を軸にします。将来の転職の可能性があるなら、特定の職場への近さより複数路線が使える駅を優先しておくと、環境の変化に耐えやすくなります。
- ● 間取りは1LDK以上が現実的。同じ予算なら一人暮らしより「駅からの距離」か「広さ」のどちらかを妥協する場面が増えます。子どもを持つ可能性があるなら、同じエリアで2LDK・3LDKへ住み替えやすいかも見ておくと、将来の引っ越しコストを抑えられます。
- ● 同棲は契約の取り決めを曖昧にしない。どちらが契約者になるか、解約時の手続きをどうするかは、関係の変化でどちらかが退去する可能性がある以上、先に決めておくべきことです。
実際に使うときの手順は次のとおりです。
- 世帯構成に合わせて物差しを決める。一人暮らしなら1R家賃と家賃負担率、二人以上なら15歳未満比率と人口あたり保育所数を主軸にし、前の住まいの評価は一度捨てる。
- 通勤時間の上限(二人なら両方の)で候補を物理的に絞る。
- 残った候補について、各市区町村ページで上の表と同じ指標を見比べる。
- 家賃負担率は、自分たちの手取り合計と実際に借りる間取りの家賃で計算し直す。
- 待機児童・学区・治安など、この記事のデータに無いものを自治体の公開情報や現地で補ってから決める。
この記事の数字について(使用データ・算出方法)
- 出典
-
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(人口)
- 総務省「国勢調査」(15歳未満人口)
- 総務省「市町村税課税状況等の調」(平均課税対象所得)
- 厚生労働省・内閣府の保育所等関連統計(保育所数)
- 民間賃貸物件データに基づく1R(ワンルーム)平均家賃
- 算出方法
-
- 家賃負担率 = 1R平均家賃 × 12ヶ月 ÷ 平均課税対象所得 × 100
- 15歳未満人口比率 = 15歳未満人口 ÷ 総人口 × 100
- 人口1万人あたり保育所数 = 保育所数 ÷ 人口 × 10,000
- 「一人暮らし向き」は家賃負担率が低い順、「二人以上世帯向き」は15歳未満人口比率が高い順に並べ、それぞれ上位20位までの重なりを数えた
- 順位相関はスピアマンの順位相関係数(値の分布が歪んでいるため、生の値ではなく順位で相関を取る)
- 中央値は各指標を算出できた市区町村の値を昇順に並べた中央の値
- 集計対象
- 人口10万人以上の416市区町村。うち家賃負担率を算出できたのは275件(1R家賃と所得の両方がある街)、15歳未満人口比率は416件、人口1万人あたり保育所数は277件。人口規模の小さい町村は物件数が少なく平均家賃が振れやすいため除外しています。
本文中の順位・平均値・相関係数は、街くらべが保有する全国1,917市区町村のデータベースから ページ表示時に算出しています。 東京都特別区部(23区の合計値を持つ集計行)は二重計上を避けるため全ての集計から除外しています。 元データに欠損がある市区町村は、その指標の集計から除外されます。