街くらべ
データ分析 / 更新 2026-09-16

家賃と所得の相関から見える「コスパの良い街」ランキングの裏側

家賃ランキングの安い順に並ぶ街が、そのまま「お得な街」とは限りません。 全国人口10万人以上の275市区町村について、 1Rの年間家賃が平均所得の何%にあたるか(家賃負担率)を実際に計算しました。

家賃負担率という一本の補助線

家賃の額面は、それ単体では街の割安さを表しません。月5万円の家賃が安いか高いかは、 その街に住む人がいくら稼いでいるかによって意味が変わるからです。

そこで、街くらべが持つ全国の家賃データと所得データを突き合わせて、 「1Rの年間家賃 ÷ その市区町村の平均課税対象所得」を計算しました。 この比率が低いほど、その街の所得水準に対して家賃が軽いことになります。

全国の中央値

人口10万人以上の275市区町村における家賃負担率の中央値は 18.1%でした。 つまり平均的な街では、1Rの年間家賃が平均所得の約18%を占めます。

家賃負担率が最も軽い街

実際に計算した結果、所得に対する家賃の軽さで上位に並んだのは次の市区町村です。

家賃負担率が低い(=所得に対して家賃が軽い)市区町村 TOP15 / 人口10万人以上
順位 市区町村 1R家賃 / 平均所得 家賃負担率
1 霧島市 鹿児島県 32,907円 / 297.9万円 13.3%
2 桐生市 群馬県 36,704円 / 305.7万円 14.4%
3 渋谷区 東京都 130,949円 / 1073.7万円 14.6%
4 周南市 山口県 42,003円 / 342.9万円 14.7%
5 北見市 北海道 39,357円 / 320.3万円 14.7%
6 日立市 茨城県 42,570円 / 341万円 15.0%
7 宇部市 山口県 42,442円 / 333万円 15.3%
8 太田市 群馬県 42,560円 / 333.8万円 15.3%
9 瀬戸市 愛知県 44,070円 / 343.6万円 15.4%
10 津市 三重県 44,342円 / 344.6万円 15.4%
11 大牟田市 福岡県 37,413円 / 288.7万円 15.5%
12 東広島市 広島県 45,151円 / 348.4万円 15.6%
13 石巻市 宮城県 38,808円 / 298.1万円 15.6%
14 つくば市 茨城県 55,659円 / 427.1万円 15.6%
15 尾道市 広島県 41,182円 / 314万円 15.7%

1位の霧島市(鹿児島県)は家賃負担率 13.3%。 全国中央値の18.1%と比べて4.9ポイント低く、 所得水準に対して住居費が抑えられている街ということになります。

「渋谷区がここに入るのはなぜか」

この表には、家賃そのものはむしろ高い街が混じっています。 渋谷区(1R 130,949円) がそれで、全国中央値の54,050円の 2.4倍以上にあたります。 それでも上位に入るのは、家賃の高さを所得の高さが上回っているからです。 家賃負担率は「家賃が安い街」を探す指標ではなく、 「稼ぎに対して住居費が軽い街」を探す指標なので、 高所得エリアが上位に来ることがあります。 ただしこれはその街の平均所得で暮らした場合の話です。 自分の年収がその街の平均を下回るなら、負担率はこの数字よりずっと重くなります。

「家賃が一番安い街」は「一番お得な街」だったのか

人口10万人以上のなかで1Rの家賃が全国最安なのは 霧島市(鹿児島県)の 月額32,907円です。

この街は家賃負担率でも1位でした。額面の安さと実質的な軽さが一致しています。 ただしこれを「家賃が安い街=お得」の証拠にしてはいけません。 1件だけを見て結論を出すと判断を誤るので、家賃が安い順トップ5について、 負担率では何位になるかを並べてみます。

1R家賃が安い順トップ5は、家賃負担率では何位か(母集団275市区町村)
市区町村 1R家賃 家賃安さ順位 負担率順位
霧島市 鹿児島県 32,907円 1 位 1 位
桐生市 群馬県 36,704円 2 位 2 位
大牟田市 福岡県 37,413円 3 位 11 位
別府市 大分県 38,749円 4 位 17 位
石巻市 宮城県 38,808円 5 位 13 位

大牟田市・別府市・石巻市 は、家賃の安さでは全国トップ5に入りながら、 負担率では11位・17位・13位まで下がります。 家賃が安い街は所得も低いため、額面の安さがそのまま家計の余裕には変換されない—— これがトップ1件だけを見ていると見落とす部分です。

家賃と所得の相関係数

同じ275市区町村で1R家賃と平均所得の相関係数を計算すると r = 0.92。 統計的には「強い正の相関がある」水準です。 家賃が高い街ほど所得も高く、家賃が安い街ほど所得も低いという関係が、全国規模のデータで確認できます。

いずれにしても、家賃ランキングを安い順に眺めるだけでは判断を誤ります。 見るべきは「家賃がいくらか」ではなく「その街の稼ぎに対して家賃がどれだけの重さか」です。

逆に、負担が重い街はどこか

同じ計算で負担率が高い側を見ると、家賃水準の高さが所得の高さでは吸収しきれていない市区町村が浮かび上がります。

家賃負担率が高い(=所得に対して家賃が重い)市区町村 TOP10 / 人口10万人以上
順位 市区町村 1R家賃 / 平均所得 家賃負担率
1 台東区 東京都 109,840円 / 482.2万円 27.3%
2 墨田区 東京都 91,812円 / 423.5万円 26.0%
3 荒川区 東京都 86,831円 / 414.6万円 25.1%
4 朝霞市 埼玉県 76,239円 / 394.8万円 23.2%
5 江戸川区 東京都 76,668円 / 398.2万円 23.1%
6 北区 東京都 78,950円 / 412.5万円 23.0%
7 川口市 埼玉県 71,147円 / 372万円 22.9%
8 練馬区 東京都 84,793円 / 447.4万円 22.7%
9 戸田市 埼玉県 73,767円 / 390.8万円 22.7%
10 板橋区 東京都 74,764円 / 397.7万円 22.6%

最も重い台東区(東京都)は27.3%で、 中央値のおよそ1.5倍にあたります。 最も軽い霧島市との差は14.1ポイントです。

ただしこの上位には、通勤圏として人気が高く「家賃が高くても住みたい人が多い」街も含まれます。 負担率の高さは、そのまま「損な街」を意味しません。 利便性という、このデータには現れない価値に対して支払っている分が含まれているからです。

この数字に含まれていないコスト

家賃負担率は候補を絞る一次フィルターとして有効ですが、生活費のすべてを表す指標ではありません。 とくに次の3点は、この比率の外側にあります。

  • ● 自動車の維持費。公共交通が薄い地域では車がほぼ必須になります。車両費・保険・ガソリン・駐車場を合わせると月2〜4万円規模の固定費になり、家賃の安さを相殺しうる大きさです。負担率の低い街ほど、この確認が重要になります。
  • ● 通勤定期代。職場が別の市区町村にある場合、家賃の差額の一部は交通費に消えます。実質的な住居コストは「家賃+定期代」で比べてください。
  • ● 間取りによる差。ここで使った家賃は1R(ワンルーム)の平均です。ファミリー向けの2LDK以上では相場の開き方が変わるため、二人以上の世帯はこの比率をそのまま当てはめられません。

また、平均課税対象所得はその市区町村に住んでいる人の所得であって、 その街で働いて得られる収入ではありません。 高所得層のベッドタウンでは所得の平均が押し上げられ、負担率が実態より軽く見えることがあります。

そしてもう一つ。あなた自身の収入がその街の平均から離れているほど、この指標の参考価値は下がります。 最終的には、自分の手取りと実際の物件の家賃で計算し直してください。 その考え方は「家賃は手取りの3割」は本当に正しいのかで詳しく扱っています。

実際に使うときの手順

  1. 通勤時間の上限を先に決めて、候補となる市区町村を物理的に絞る。
  2. 残った候補について、上の表と同じ考え方で家賃負担率を比べる(各市区町村ページに家賃と所得の実数値を載せています)。
  3. 負担率が近い候補が並んだら、車の要否・定期代を足した「実質住居コスト」で再計算する。
  4. 最後に自分の手取りで割り直して、無理のない水準かを確認する。

この記事の数字について(使用データ・算出方法)

出典
  • 総務省「市町村税課税状況等の調」(平均課税対象所得)
  • 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(人口)
  • 民間賃貸物件データに基づく1R(ワンルーム)平均家賃
算出方法
  • 家賃負担率 = 1R平均家賃 × 12ヶ月 ÷ 平均課税対象所得 × 100
  • 相関係数はピアソンの積率相関係数(1R平均家賃と平均課税対象所得の2変数)
  • 中央値は家賃負担率を算出できた市区町村の値を昇順に並べた中央の値
集計対象
人口10万人以上の市区町村のうち、家賃・所得の両方にデータがある275件。人口規模の小さい町村は物件数が少なく平均家賃が振れやすいため除外しています。

本文中の順位・平均値・相関係数は、街くらべが保有する全国1,917市区町村のデータベースから ページ表示時に算出しています。 東京都特別区部(23区の合計値を持つ集計行)は二重計上を避けるため全ての集計から除外しています。 元データに欠損がある市区町村は、その指標の集計から除外されます。

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