犯罪率が低い県には共通点があるのか——47都道府県のデータで通説を検証する
「田舎は安全」「所得が高い地域は安全」。よく聞くこの2つの通説を、 47都道府県の犯罪率データで実際に検証しました。 片方は支持され、もう片方は支持されませんでした。
先に、なぜ「市区町村別」ではなく「都道府県別」なのか
このサイトは全国1,917市区町村のデータを扱っていますが、 犯罪率だけは市区町村単位の公式データが公開されていません。 街くらべでも都道府県単位の数値を各市区町村に割り当てて表示しています。 実際、市区町村ごとの内訳を持っている都道府県は 47都道府県中0都道府県です。
この状態で市区町村を母集団にして集計すると、人口の多い県ほど同じ犯罪率を何十回も重複カウントすることになり、 「人口規模別の平均犯罪率」も「所得との相関」も統計として成立しません。 そのため、この記事の集計はすべて47都道府県を母集団としています。 サンプル数が47と少ない点は、結果を読むうえで割り引いてください。 また、以下は統計的な傾向の分析であり、個別の事件の予測を意図するものではありません。
まず、都道府県の犯罪率を並べる
47都道府県の犯罪率(人口千人あたりの認知件数)の中央値は 4.25件/千人でした。ここから上下にどれだけ幅があるかを見ます。
最も低い秋田県が2.68件/千人、 最も高い群馬県が7.53件/千人。 その差は2.8倍です。 同じ日本でも、統計上の治安環境にはこれだけの開きがあります。
通説①「田舎は安全」——データはどう答えたか
県の総人口(県内市区町村の人口合計)と犯罪率の関係を見ます。 「田舎ほど安全」が正しければ、人口が少ない県ほど犯罪率が低くなるはずです。
| グループ | 内訳 | 犯罪率 |
|---|---|---|
| 人口が多い5県 | 神奈川県・東京都・大阪府・愛知県・埼玉県 | 5.17 |
| 人口が少ない5県 | 鳥取県・島根県・高知県・徳島県・福井県 | 4.07 |
人口の少ない5県が4.07件/千人、多い5県が5.17件/千人。 通説どおり、人口の少ない県のほうが犯罪率は低いという結果になりました。 差は1.10ポイントです。
県の総人口 × 犯罪率の順位相関
47都道府県で順位相関を取ると ρ = 0.11、 「ほとんど相関がない」水準です。 47県を通してみると、人口規模は県の犯罪率をほとんど説明しませんでした。
上の表と係数が食い違って見えますが、矛盾ではありません。 両端を取り出せば差が出るが、47県を通した順位では関係がほぼ消える—— つまり人口規模と犯罪率は一直線には並んでいない、ということです。 人口が中位の県には犯罪率が高い県も低い県も混在しており、 「田舎だから安全」を一般法則として使うことはできません。 人口以外の要因のほうが効いている、と読むのが妥当です。
なぜ「田舎は安全」という感覚が生まれるのか。犯罪機会論では 「動機を持つ人」「適切な標的」「監視の不在」の三つが重なったときに犯罪が発生するとされます。 人口密度が低い地域ではこの三つが同時に揃う機会が少なく、 地域のつながりが強いため見知らぬ人物が目立ちやすい——これが「監視の存在」として働きます。
ただし統計を読むうえで無視できない点があります。 地方部ほど犯罪の届け出率が低い傾向があるということです。 近所に知られたくない、面倒をかけたくないといった心理から被害を申告しないケースが相対的に多いとされ、 統計上の「低い犯罪率」にはこの差が含まれている可能性を排除できません。
通説②「所得が高い地域は安全」——相関を取ってみた
高所得層が多い地域は治安が良い、というイメージがあります。 県内市区町村の平均課税対象所得の中央値と、県の犯罪率の相関を取れば検証できます。
県の所得中央値 × 犯罪率の順位相関
47都道府県で順位相関を取ると ρ = 0.38、 統計的には「弱い正の相関がある」水準です。 意外にも、所得が高い県ほど犯罪率がやや高い傾向が出ました。所得の高い県には都市部が含まれ、繁華街や流入人口を抱えるためと考えられます。
所得と治安の関係がこのように単純にならないのは、「所得の高い地域」が2種類あるからだと考えられます。 ひとつは郊外の閑静な住宅地。夜の繁華街がなく、商業施設が少なく、コミュニティが成熟しています。 もうひとつは都心部で、所得も地価も高い一方、企業・観光・繁華街が集中し、 就業者や観光客といった流入人口を大量に抱えます。
この2つは「所得が高い」という点では同じでも、犯罪機会の量がまったく違います。 両方が同じ県に同居するため、所得を軸にした相関は打ち消し合って弱くなります。 治安を左右しているのは所得水準そのものではなく、その場所の性格—— 昼夜の人口構成、商業集積の種類、コミュニティのあり方——だということです。
県の数字は、あなたが住む場所の治安ではない
ここが最も重要な注意点です。上のランキングで下位だった県にも安全な住宅地は大量にあり、 上位だった県にも犯罪が集中する一角はあります。 群馬県の住宅街より秋田県の繁華街のほうが犯罪機会は多い、ということが普通に起こります。
駅前に歓楽街を持つ地域ほど犯罪率が高く出やすいのは、犯罪機会論から説明がつきます。 深夜の人通り、現金を持った酔客、顔の見えない一時滞在者——これらは犯罪機会を高めます。 暴行・窃盗・詐欺は繁華街周辺に集中しやすい類型です。 重要なのは、これが「その地域に悪い人が多い」ことを意味しないという点です。
候補物件を評価するときは、県の数値ではなく、 その物件から徒歩圏内に何があるかを地図で確認してください。 駅前の業態——居酒屋中心か、ファミリー向けのスーパーや書店が多いか——は、夜の街の性格をよく反映します。
この分析で見えなかったこと
正直に書くと、今回のデータで検証できたのは通説のごく一部だけです。次の点は数字からは見えません。
- ● 市区町村レベルの差。公式データが公開されていないため、そもそも街どうしの比較ができません。このサイトが市区町村ページに表示している犯罪率も、都道府県の値です。
- ● サンプル数が47しかない。相関係数は標本が小さいほど偶然で振れます。上の ρ の値は方向性の目安であって、精密な推定ではありません。
- ● 犯罪の種類別の内訳がない。空き巣が多い地域と路上犯罪が多い地域を区別できていません。単身者と子育て世帯では警戒すべき類型が違います。
- ● 届け出率の地域差を補正できていない。犯罪率の低さの一部は「申告されなかった被害」かもしれません。
- ● 時系列がない。治安が改善傾向にあるのか悪化傾向にあるのかは判定できません。
最終的な治安評価は、数字と現地感覚を組み合わせるしかありません。 候補エリアを夜間に歩く、自治体の防犯情報や地元の掲示板を読む—— こうした一次情報との照合は、統計データには代えられない価値を持ちます。
この記事の数字について(使用データ・算出方法)
- 出典
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- 警察庁・都道府県警察の公開犯罪統計(認知件数)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(人口)
- 総務省「市町村税課税状況等の調」(平均課税対象所得)
- 算出方法
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- 犯罪率 = 年間認知件数 ÷ 人口 × 1,000(件/千人)
- 県の総人口 = 県内市区町村の人口の合計
- 県の所得中央値 = 県内市区町村の平均課税対象所得の中央値
- 相関はスピアマンの順位相関係数 ρ(標本は都道府県。人口・所得とも県ごとの開きが大きく、値そのものを使うピアソン相関では少数の大規模県に結果が引っ張られるため)
- 集計対象
- 犯罪率データを持つ47都道府県。犯罪率は市区町村単位の公式データが公開されていないため、市区町村を母集団にした集計は行っていません(同じ値の重複カウントになり統計として成立しないため)。
本文中の順位・平均値・相関係数は、街くらべが保有する全国1,917市区町村のデータベースから ページ表示時に算出しています。 東京都特別区部(23区の合計値を持つ集計行)は二重計上を避けるため全ての集計から除外しています。 元データに欠損がある市区町村は、その指標の集計から除外されます。