都会と地方、同じ年収でも「実質的な豊かさ」はどう変わるか
「地方のほうが生活が楽」はどこまで本当か。 全国の平均所得から1Rの年間家賃を引いた「家賃を払った後に残る額」を 275市区町村について実際に計算し、都市規模別に比べました。
所得から家賃を引いてみる
額面の所得だけを比べても、生活の余裕は分かりません。 都会は稼げるが家賃も高く、地方は家賃が安いが所得も低いからです。 そこで、街くらべが持つ所得データと家賃データを使って、 「平均課税対象所得 − 1R家賃 × 12ヶ月」を市区町村ごとに計算しました。
単身者が最低限の住居を確保したあとに、生活費・貯蓄・娯楽へ回せる額の目安です。 あくまで平均値どうしの引き算ですが、額面の所得ランキングとは違う姿が見えてきます。
全国の中央値
人口10万人以上の275市区町村では、家賃を払った後に残る額の中央値は 年285.3万円(月あたり約237,714円)でした。
都市規模別に見ると、どうなるか
「地方のほうが手元に残る」が正しければ、人口が小さい帯ほど残る額が大きくなるはずです。 所得・年間家賃・残りの3つを、人口規模帯ごとの中央値で並べました。
| 人口規模 | 平均所得 | 年間家賃 | 家賃後の残り |
|---|---|---|---|
| 3万人未満 (335) | 282.6万円 | 45.1万円 | 241.4万円 |
| 3万〜10万人 (472) | 306.2万円 | 54.9万円 | 252万円 |
| 10万〜30万人 (193) | 337.9万円 | 64.7万円 | 278.5万円 |
| 30万人以上 (82) | 368.3万円 | 68.4万円 | 298.1万円 |
括弧内は各帯で集計できた市区町村数です。
結果は「地方のほうが手元に残る」という通説と逆でした。 人口30万人以上の帯が年298.1万円、 人口3万人未満の帯が年241.4万円で、 大都市のほうが年56.7万円多く残る計算になります。 家賃の差より、所得の差のほうが大きいということです。
所得と「家賃後の残り」の相関係数は275件で r = 0.99、 「強い正の相関がある」水準でした。 所得が高い街ほど、家賃を払ったあとに残る額も大きい。家賃の高さは所得の高さを打ち消しきれていません。
※ この係数は割り引いて読んでください。「残り」は所得から年間家賃を引いた値なので、 2つは最初から所得という共通項を持っています。 しかも市区町村間の差は家賃より所得のほうがはるかに大きいため、 係数が高く出るのはある程度は算術上そうなるものです。 ここで意味があるのは係数の大きさではなく、 「家賃の差が所得の差を逆転させるほどではない」という向きのほうです。
家賃を払った後に最も残る街
実際の市区町村で見ると、次のようになります。
| 順位 | 市区町村 | 所得 / 年間家賃 | 家賃後の残り |
|---|---|---|---|
| 1 | 港区 東京都 | 1396.8 / 235.3万円 | 1161.5万円 |
| 2 | 渋谷区 東京都 | 1073.7 / 157.1万円 | 916.6万円 |
| 3 | 中央区 東京都 | 780.8 / 174.8万円 | 606万円 |
| 4 | 文京区 東京都 | 707.2 / 135.5万円 | 571.7万円 |
| 5 | 目黒区 東京都 | 716.7 / 155.7万円 | 560.9万円 |
| 6 | 世田谷区 東京都 | 619.8 / 120.6万円 | 499.2万円 |
| 7 | 新宿区 東京都 | 620.5 / 134.4万円 | 486.1万円 |
| 8 | 武蔵野市 東京都 | 581.1 / 109.9万円 | 471.2万円 |
| 9 | 品川区 東京都 | 557 / 123.4万円 | 433.6万円 |
| 10 | 鎌倉市 神奈川県 | 519.2 / 99.8万円 | 419.3万円 |
| 11 | 杉並区 東京都 | 515.8 / 105.7万円 | 410.1万円 |
| 12 | 江東区 東京都 | 498.6 / 104.7万円 | 393.9万円 |
| 13 | 西宮市 兵庫県 | 475.7 / 83.5万円 | 392.2万円 |
| 14 | 三鷹市 東京都 | 488.2 / 100.4万円 | 387.9万円 |
| 15 | 浦安市 千葉県 | 481.1 / 93.7万円 | 387.4万円 |
1位の港区(東京都)は 年1161.5万円。全国中央値より 年876.2万円多く残る計算です。
逆に最も残らないのはうるま市(沖縄県)の 年216.3万円で、 1位との差は年945.1万円。 同じ日本国内でも、住む場所によって「家賃を払った後の余裕」にはこれだけの幅があります。
ここまでは「同じ年収」の比較ではない
重要な区別をしておきます。ここまでの数字はその街の平均的な住民の話であって、 「同じ年収の人がどちらに住むと得か」ではありません。 上位に大都市が並んだのは、そこに住む人の所得が高いからです。 港区に引っ越したからといって、あなたの年収が1396.8万円になるわけではありません。
そこで、年収を400万円に固定して計算し直します。 同じ収入の人が各都市で1Rを借りた場合、家賃を払った後にいくら残るかです。
結果は完全に逆転します。平均所得ベースで1位だった港区は、 年収を固定すると275市区町村中275位。 1位の霧島市との差は 年195.8万円です。 同じ年収なら、家賃の安い地方のほうが手元に残る——通説はこちらでは成立します。
つまり「都会と地方どちらが豊かか」は、質問の立て方で答えが反転します。 その街の平均的な住民として暮らすなら都市部、 収入を持ち運べるなら地方。 フルリモートで都市部の給与を維持したまま地方に住めるなら後者の条件に当てはまりますが、 転職を伴う移住なら前者に近づきます。自分がどちらのケースかを先に決めてください。
この計算に入っていない最大の費用——車
ここまでの数字には、地方の生活で最も効いてくる固定費が入っていません。自動車です。 公共交通が薄い地域では車がないと生活が成立せず、 車両ローン・任意保険・税金・車検・燃料費・駐車場代を合わせると、 1台あたり月30,000〜50,000円程度の負担になるのが一般的です。
車を1台足すと、上の表はどう変わるか
年額に直すと36万〜60万円。 これは全国中央値(年285.3万円)の 13〜21%にあたります。 上のランキングで上位に入った街の多くは車が前提の地域なので、 この額を引いてから都市部と比べ直す必要があります。世帯で2台なら負担は倍です。
逆に言えば、都市部の高い家賃は「車を持たなくて済む権利」の対価という側面があります。 家賃の差だけを見て地方移住を判断すると、この振り替えを見落とします。
そのほか、この数字が捉えていないもの
- ● 物価の地域差。「地方は物価が安い」と言われますが、全国チェーンの小売が普及した現在、スーパーの食料品や日用品の価格差は住居費や車の維持費ほど大きくありません。品目ごとに差があると捉えたほうが実態に近いです。
- ● 間取り。使ったのは1Rの家賃です。世帯で住むなら住居費は上がり、都市部ほど上がり幅が大きくなります。単身と世帯では結論が変わりえます。
- ● 平均所得は「住んでいる人」の所得。その街で働いて得られる収入ではありません。高所得層のベッドタウンでは平均が押し上げられます。移住して同じ所得を得られる保証はない、という点がこの計算の一番大きな制約です。
- ● 時間。都会は通勤時間が長くなりがちで、地方は車移動そのものが時間と集中力を使います。金額に換算しにくいものの、生活満足度への影響は小さくありません。
結局のところ、都会と地方のどちらが豊かかは一般解が出ません。 出るのは「あなたの職種で、その街でいくら稼げて、車が要るかどうか」という個別解です。 上の表は、その個別計算を始めるための出発点として使ってください。
自分で試算する手順
- 候補地の家賃相場を、各市区町村ページの実データで確認する。
- 自分の見込み年収から、年間家賃を引く。
- その地域で車が必要かを調べ、必要なら年36万〜60万円を台数分引く。
- 通勤定期代がかかるなら、それも引く。
- 残った額どうしで候補地を比べる。
この記事の数字について(使用データ・算出方法)
- 出典
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- 総務省「市町村税課税状況等の調」(平均課税対象所得)
- 民間賃貸物件データに基づく1R(ワンルーム)平均家賃
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(人口)
- 算出方法
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- 家賃後の残り = 平均課税対象所得 − 1R平均家賃 × 12ヶ月
- 人口規模帯ごとの代表値は、外れ値の影響を避けるため平均ではなく中央値を使用
- 相関係数はピアソンの積率相関係数
- 自動車の維持費(月30,000〜50,000円)は統計値ではなく、ローン・保険・税金・車検・燃料・駐車場を合算した一般的な目安です
- 集計対象
- ランキングは人口10万人以上かつ所得・家賃の両方にデータがある275市区町村。人口規模別の表は全国の全市区町村を対象にしています。
本文中の順位・平均値・相関係数は、街くらべが保有する全国1,917市区町村のデータベースから ページ表示時に算出しています。 東京都特別区部(23区の合計値を持つ集計行)は二重計上を避けるため全ての集計から除外しています。 元データに欠損がある市区町村は、その指標の集計から除外されます。